イゴローナクの手(The Hand of Y'golonac)

著者:Brian M. Sammons
日本語翻訳:TRAM


 この異様な太古の遺物が経て来た歴史は狂気と謎に包まれている。長年「手」の実在に関する噂が語り継がれ、「無名祭祀書」、「魔術の真理」、「グラーキの黙示録」等の魔道の書物にも詳述されている。伝えられるところによれば、この異様なる彫刻は歴史上の様々な場所にて目撃されている。目撃場所としてはロシア皇帝の宮廷、イタリアの教皇代理の個人執務室、フランスのとある売春宿のベッドルームなどである。
 これら目撃例には誤認も数多く、誰も確認するに至っていない。しかし、その堕落的な能力については広く伝わっている。

外観
 「イゴローナクの手」は緑灰色の岩石から削り出されているが、その岩の成分に関しては未だ判明していない。その石には人間の左腕の肘から先の部分が彫られている。肘関節があるべき場所にはこの彫刻の土台があり、その上から腕が垂直に伸びている。手のひらはやや傾き、指が広げられ、その指は僅かに曲げられている。彫刻家はその手を何らかの未知の物体の受け台としてデザインしたのが明らかだ。
 その「手」を際立たせている特徴が2つある。第一に、手のひらには口が彫られている。乱杭歯をむき出しにしたその口は人間のというよりも獣のそれである。
 第二の特徴は土台の前面にある。そこには高さ3センチ幅15センチに渡って柔らかい粘土の部分がある。この矩形の粘土と手のひらにある口、そしてそれらが合わさる事によって意味する事柄が、「イゴーロナクの手」に邪悪なる評判を与えている。

その力
 神秘学者たちによれば、その像は太古のある強力な魔道師によって彫られた物だそうだ。また、その魔道師はイゴローナクと呼ばれる堕落と腐敗の邪悪なる存在に仕える大祭司であったと考えられている。伝えられるところによると、その「手」は地球の下の巨大な壁の後ろで眠るイゴローナクとの意志の疎通を可能とさせる物らしい。「手」にはもっと別の邪悪なる目的も存在する。罪業を重ねてきたある男は正しい文句を唱える事で、無知の敵に恐ろしい復讐を与えしめたと言われている。この恐ろしい攻撃は気づかれることなしに、相手が何処にいようとも影響を及ぼす事ができた。この呪文(「グラーキの黙示録」第12巻に記載されている)を行使するには、攻撃者は対象となる犠牲者のフルネームと、己の悪魔的意図を達成するためにその行為がどんなに嫌悪を催させるものであってもやり抜くという意志を必要とする。
 この攻撃は精神の堕落と魂の汚しである。まず、「手」の使用者は像の土台に犠牲者の名前を書き込む。その際に加害者は最も不快な類の悪事を行う事を請け合わなくてはならない(どういう訳か、それら行為は性的な性質を帯びていることが多い)。その行為が成される時には、加害者はその罪深い行為を象徴するようななんらかのアイテムもしくは小さな装身具を相手から奪う。そしてこの戦利品が「イゴローナクの手」に置かれると、その手はしっかりと握り締められる。するとこの不可思議な像はおぞましい力を発揮して、「イゴローナクの接触」の効果を発揮する。
 像の土台に名を書き込まれた不幸な人物は、奇妙で心かき乱す夢を見始める。夢の最初のうちは霧がかかったようではっきりとしないが、目覚めの時が近づくにつれて段々とはっきりしてくる。不健全な映像や思考が対象者を日夜襲う。やがて対象者は、「手」の使用者が魔法を発動させる際に確約したものと同様の行為を行う欲望を制御できなくなる。そしていつかは犠牲者の精神力も容赦ない衝動の前に屈し、貪欲にそして気ままに邪悪なる行為を重ねるようになる。一度望みが叶えられれば「手」は再び開かれる。手のひらに置かれた品物は消えてしまい、再度その力を使う準備が整う。
 「手」の力をくり返し受けた犠牲者は、苦しみを終わらせるため自殺する者が大半である。「手」の所有者が攻撃を止めたり、継続を邪魔されるというケースもある。いずれにせよ、「イゴローナクの接触」を受けた後も生き残った者の心は永久に変わってしまう。生存者は残りの生涯を、不快で不健全で吐き気を催させるような思考や欲望とともに暮らしていかなければならないのだ。


イゴローナクの手

高さ:指先から土台まで、35cm
重さ:5.5kg
土台:20cm×20cm×5cm
製作者:不明
:イゴローナクとの接触(同名の呪文と同じだが、POWを1ポイント犠牲にする代わりに3マジックポイントを消費することによって自動的に成功する)、イゴローナクの接触(新呪文、以下を参照)

イゴローナクの接触:この呪文には、術者が「イゴローナクの手」を持っていなくてはならない。呪文を行使するには、所有者は苦痛に満ちた悪意ある行為を誰かに対して行うことを約束し、その事件に関連する小さな品を取ってこなくてはならない――例えば、殺した犠牲者のシャツから取ったボタンなど――(この行為によるSANの喪失の度合いはキーパーの任意である)。術者は像の土台にある柔らかな粘土へ対象者の名(この対象者は、上で行った犯罪行為の犠牲者とは別でよい)を刻み込み、「イゴローナクの手」の手のひらに犯罪行為で得た品を置き、10マジックポイントを費やし、正気度を1D8ポイント失う。呪文の対象者は奇妙な夢と衝動を経験し、やがて術者が約束したものと同様の犯罪を行う強烈な衝動に駆られるようになる。この衝動に耐えるには、対象者は「手」とのPOW対POWの対抗ロールに打ち勝たなければならない。衝動が初めて起こった際の「手」の影響力(POW)は15である。対象者が抵抗した際に、「手」が対抗ロールに勝てば「手」のPOWは1ポイント増加する(逆に負ければ「手」のPOWは1ポイント低下する)。対象者が対抗ロールに負ければ対象者は1D6の正気度を失い、術者が行った恥ずべき犯罪と同様の行為に身を委ねてしまう。(対象犠牲者と術者の(犯罪の)犠牲者とが同一人物である必要はないが、大抵は同じ性別、年齢、人種、社会階級であったりする) もし犠牲者がなんとかPOWによる抵抗に勝てば、恐ろしい悪夢(0/1D2正気度)を見るだけで他の効果は受けない――少なくとも術者が再度攻撃してくるまでは。
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1997 Brian M. Sammons


訳者ノート:「イゴローナクとの接触」と「イゴローナク接触」は紛らわしい訳語となってしまいました。原語はそれぞれ「Contact Y'golonac」と「Touch of Y'golonac」です。「イゴローナクとの接触(Contact Y'golonac)」はルールブック169ページに載っています。また、イゴローナクについての解説ははルールブック105ページに載っています。(TRAM)


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